2018年度試行プロジェクト採択案
「“視聴覚障がい者も楽しめる花火“の新たな取組み」
大曲の花火~秋の章~にて“視聴覚障がい者のための花火“を実施しました

2018年10月13日、秋田県大仙市の「大曲の花火〜秋の章〜」にて、「視聴覚障がい者のための花火」を実施しました。
当日は、このプロジェクトに賛同いただいた大曲市、秋田市内の視聴覚障がいの方々、同伴者の方々36名を花火大会に招待し、「視聴覚障がい者のための花火」を体験していただきました。

「障がいがある方もない方も、みんなが楽しむことができる花火大会」を目指し、7月からワークショップを実施。視聴覚障がいの方々と花火師、運営側で話し合いを重ねる中で、多くの障がい者が、花火大会に行きたくても行けない環境にあることを知り、どうやったら花火大会に来てもらえるか、花火を楽しんでもらえるか、その方法を様々な角度から考えてきました。

そして、この大曲の花火〜秋の章〜では、8つの企画を実現することができました。
花火という伝統芸術と様々な新しい技術を組み合わせ、視聴覚障がいの方々が会場で楽しんでもらえるように様々な工夫を凝らしました。

  1. 1. 花火の情景や花火の種類を朗読劇で表現する花火朗読劇「命火」
  2. 2. 「光が強く、高い音や強い音でリズムを楽しんでもらえる花火」の開発、打揚
  3. 3. 音を振動に変換するネックレス型振動装置「Hapbeat」
  4. 4. 難聴者向けスピーカー「ミライスピーカー」「ソノリティ」
  5. 5. 会場アナウンスをテキスト情報でスマートフォンに配信するアプリ「UDトーク」
  6. 6. 実際に触れることができる花火の模擬玉や花火筒の展示
  7. 7. 花火大会の情景を点図イラストで表現した「点図チラシ」
  8. 8. 大会の点字プログラム

8つの企画の詳細を見る>

参加していただいた方々からは、「新しい感覚で花火を見る、感じることができ、とても楽しい体験ができた」「皆で楽しめる花火、感じる花火を考えてくれて感動しました。障がい者が少しでも楽しむ事ができる社会を期待します。」といった声を数多くいただきました。

このプロジェクトに参加した花火師たち

  • 【響屋大曲煙火株式会社 齋藤氏】

光りや音の強弱など色々な玉を試作しました

視聴覚障がいの方々を意識して花火を作った経験がなかったので、ワークショップに参加しお話を聞いて、色々なひらめきがありました。
花火の開発にあたっては、光を強くしてみたり、音に強弱をつけて楽しめるよう、色々な玉を試作、検証したので、皆さまに喜んでもらえたと聞き、まずは嬉しい、という思いです。
花火の光や音は、火薬の配合比率を調整するのですが、かなり難儀な作業でした。強くし過ぎると、今度は火が着き難くなってしまったりと、問題が出てくるので、配合を変えては直前までテスト打ち上げを繰り返しました。今回のプロジェクトは、様々なことを考えさせられ、良いきっかけを頂くことができました。これからは、どんどん「全てのお客様に楽しんでいただける花火作り」に挑戦していきたいと思います。

  • 【株式会社和火屋 久米川氏】

花火大会に来たくても来られない、そういう障がい者が多くいることを改めて感じました

ワークショップに参加し”障がいを持っている方々が、花火大会の会場にきて、花火を楽しむ”ことの難しさを、改めて知りました。そんな皆さんの思いを常に意識し、改良に改良を重ねて製造をした花火を打ち上げさせていただきました。皆さまに、すごく喜んでもらえたのでホッとしています。
同じような気持ちで花火大会に来れない方は、世界中に沢山いらっしゃると思いますので、そういう方々にも我々の作った花火を楽しんでもらえるよう、今後も花火を製造していきたいと思っています。

  • 【株式会社小松煙火工業 小松氏】

障がい者の方はもちろん、一般の方にも楽しんでもらえるわかりやすい花火を

障がい者の方々が、なかなか花火大会に足を運べない、というお話しをワークショップでお聞きして、久しぶりに足を運んだ方にも、あぁ花火って進化しているんだな、やっぱり楽しいな、と思ってもらえるように、また昔見た花火を思い出し懐かしんでもらえるように、そういうことを意識して作り上げました。脚本家の方が作り上げるストーリーと我々の作る花火、打ち上げる技術を、どう組み込むか、工夫のしがいがありました 。そしてイメージ通りのものができあがったと思っています。今回はこの企画に賛同いただいた方をご招待したわけですが、今後は特別なしつらえではなく、障がい者の方が自発的に会場に来て見てみたいと思ってもらえるようなものを、告知も含めてもっと工夫して作り上げていきたいと思っています。

参加していただいた方々からは、「新しい感覚で花火を見る、感じることができ、とても楽しい体験ができた」「皆で楽しめる花火、感じる花火を考えてくれて感動しました。障がい者が少しでも楽しむ事ができる社会を期待します。」といった声を数多くいただきました。

2020のオリンピック・パラリンピック東京大会に向け、これからも、日本全国の花火大会で、花火の啓蒙とバリアフリーを実現させることを目指し、今後も挑戦を続けていきます。

視聴覚障害者のための花火 8つの企画

花火朗読劇「命火」(いのちび)

  1. 1.花火の情景や花火の種類を朗読劇で表現する花火朗読劇
  2. 2. 打ち上げる花火そのものの製造に工夫を凝らし「光が強く、高い音や強い音でリズムを楽しんでもらえる花火」の開発、打揚

会場に流れる朗読劇の音声と、打ち上がる花火のタイミングをぴったり合わせることで、朗読と花火が一体となった、これまでにない新しい花火のプログラムが生まれました。

目の前に繰り広げられている花火の情景を、朗読劇で表現することにより、花火を見ることができない方にも、今どんな花火が上がっているのかを想像しながら楽しんでもらえるような構成にしました。朗読劇はストーリーがあり、その中には花火の説明なども織り交ぜられているため、健常者の方にもそのストーリーを楽しみながら、花火鑑賞をしていただけるよう工夫を凝らしたプログラムです。
打ち上がる花火は、秋田の花火師たちが何度も試し打ちをして光りの強さや音の強弱に工夫を凝らし、弱視の方や難聴の方にも花火の音や光りを届けられるように作りました。

【 当日のご意見 】

  • ・花火の形状の説明が分かりやすく、ストーリーと曲に合った命火(いのちび)は本当に良かった
  • ・花火朗読劇を聞いて、小さい頃、両親と花火を見たことを思い出し、感動しました。
  • ・花火の形状の説明がわかりやすく、話と曲にあった花火がよかった。

【朗読劇「命火」 声の出演】

祖父役:塾 一久(じゅく いっきゅう)
文学座に40年在籍、
「オイディプス王」など蜷川幸雄作品出演多数。
声優では海外TVドラマ&映画からアニメの「サザエさん」まで幅広く活動。
祖母役:近藤 恭世(こんどう やすよ)
CMや舞台で活動。
2018年CMでは「サントリークラフトボスブラウン 別人編」
「ニチガス・二・スルーノ三世 商店街編」など
父役:雑賀 克郎(さいが よしお)
近畿大学文芸学部演劇芸能専攻卒業。
劇団LIVES所属。
舞台を中心活動、ほか映画やTVドラマにも多数出演。
息子役:小澤 真悟(おざわ しんご)
静岡県出身。
舞台を中心に活動。
石原プロモーションプロデュース「希望のホシ」ほかLIVES作品出演多数。

【朗読劇「命火」 スタッフ】

脚本・演出:大浜 直樹(おおはま なおき)
劇団LIVESの主宰として『ROPPONGI NIGHTS』『瀬戸の花嫁』など人情喜劇を多数発表する他、石原プロ初の舞台作品『希望のホシ』や、EXILE黒木啓司、三代目J Soul Brothersの岩田剛典、山下健二郎などが出演した舞台『ムッシュ!』でも脚本、演出を務めた。
録音/効果:須坂 あゆみ(すざか あゆみ)
朗読劇プロデュース:印南 雅子(いんなみ まさこ)
プロデューサー、俳優、声優。
映像、グラフィック、などのプロデュースほか俳優として、劇団LIVES作品ほか、「カルタゴの人々」「アルトゥロ・ウイの興隆」ほか海外作家の舞台作品、映画「扉のむこう」など映像作品にも多数出演。

ネックレス型振動装置

  1. 3. 音を振動に変換するネックレス型振動装置「Hapbeat」

Hapbeatは音の波形を振動に変える装置で、首からかける小さな装置から繰り出される小気味よい振動は、ライブハウスにいるような臨場感を与えてくれます。視聴覚障がいの方々に、振動で花火を楽しんでもらえるのではないか、という試みとして2つの花火プログラムでHapbeatを使用しました。
ワークショップでは、振動が強すぎる、タイミングがあっていない、など様々な指摘があり、課題が大きかったのですが、花火師と開発側で何度も話し合いを重ね、手元で振動の大きさを調整できる様デバイス自体をアップデートしたり、花火と振動タイミングや強弱の調整など細かなプログラムを作り上げました。
第1幕「ディスコ花火」では、聴覚障がい者の方に音楽の部分を振動で表現することで、音楽花火ならぬ、振動花火を、そして第3幕 日本花火作家選抜「伝統割物と斬新自由玉」では視覚・聴覚障がい者の方に、花火が点火してから天高く上っていく様と、大輪を咲かせる花火の現象を振動で表現することを試みました。

【 当日のご意見 】

  • ・ワークショップの時より色々な点が改善されており良かった。
  • ・新しい花火の感じ方ができた。
  • ・今まで目からだけの花火だったのが、音と一体となり感動した。一つ進歩したと思う。
  • ・首に提げると邪魔になったので、手に持ってみたら良かった。
  • ・振動が不快でした。

【デバイス提供】Hapbeat合同会社(公式サイト:http://hapbeat.com/

難聴者向けスピーカー「ミライスピーカー」「ソノリティ」

  1. 4. 会場アナウンスが聞こえやすい難聴者向けスピーカーの設置

難聴の方の場合、通常のスピーカーから流れてくる場内アナウンスは、音はするけれど何を言っているのか聞き取りにくいという現象が起きています。そのためプログラムのアナウンスが読み上げられても聞き取れずに、今どの花火が上がっているのかがわからなくなってしまうそうです。トイレの場所や緊急アナウンスなどがあっても、聞き取れないために不安な思いをすることもあるようです。こうした問題を解決するために、「聞こえ」を改善するための技術を使用し、難聴者の方でも聞きとりやすい音を、広く遠くまで届けるスピーカーを、モニター障がい者席前方に4基設置し、「聞こえ」のストレスの改善を図りました。

【 当日のご意見 】

  • ・音が良く聞こえ、アナウンスの内容が確認できた。
  • ・駅などの公共機関と比較して、会場アナウンスが聴き取り易かった。
  • ・難聴者の自分には、スピーカーが良かった。アナウンスも聞き易かったように思います。

【スピーカー機材提供】
ソノリティ:ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社(公式サイト:http://u-s-d.co.jp/
ミライスピーカー®:用途開発 販売:凸版印刷株式会社/開発 株式会社サウンドファン(公式サイト:https://soundfun.co.jp/

字幕配信

  1. 5. 会場アナウンスをテキスト情報でスマートフォンに配信するアプリ「UDトーク」

「聞こえ」のストレスをさらに低減させるために、音声を文字に変換するアプリ「UDトーク」を使用して、場内アナウンスをリアルタイムのテキスト情報として、スマートフォンに配信。花火朗読劇「命日(いのちび)」のセリフもテキスト情報として表示させ、聴覚障がいの方々にも花火と物語を楽しんでいただきました

写真の女性は難聴の障がいをお持ちですが、同時に聴覚過敏でもあり、花火の破裂音やコンサート会場での大きな音などは、音が大きく聞こえすぎることで頭痛や吐き気などの体調不良をおこしてしまいます。そのため、今回のプロジェクトでは防音イヤーマフを用意し、事前に別の花火大会で試してもらったところ、大きな音が普通の大きさに聞こえてとても快適に花火を楽しむことができたと喜んでいただくことができました。防音イヤーマフで音が聞こえない部分は、UDトークの字幕でカバーしていただきました。

【 当日のご意見 】

  • ・これまでは場内アナウンスが聞こえないので、打ち上がる花火が何か分からず見ていたが、今回は文字で読めたので分かりやすかったです。
  • ・UDトークはとても良かったです。ワークショップでお願いしたので、採用していただいて有難かったです。
  • ・難聴者の自分には、スピーカーが良かった。アナウンスも聞き易かったように思います。
  • ・時間差がほとんど無いので、不安なくダイレクトに楽しめました。特に朗読劇でその力を十分に見せつけられました。とても感動しました。たくさんのイベントで使えるようにして欲しいです。
  • ・とても楽しく鑑賞できました。ヘッドフォン(防音イヤーマフ)はとても役に立ち、他の色々な花火大会でもぜひ使用したいなと思いました。

【使用アプリ】UDトーク:http://udtalk.jp/

触ってわかる花火

  1. 6. 実際に触れることができる花火の模擬玉や花火筒の展示
  2. 7. 花火大会の情景を点図イラストで表現した「点図チラシ」
  3. 8. 大会の点字プログラム

視覚障がいの方から多く寄せられた要望として、花火を触って感じられるものが何か欲しいというものがありました。この多くの要望にお答えし、展示ブースの設置、点図チラシ、点図プログラムという3つの「触ってわかる花火」を実現させました。

障がい者席の横には、実際の重さと大きさを再現した花火玉や花火筒などの模型を展示し、スタッフが説明をすることで、これまで知らなかった花火玉の大きさや重さなどを感じていただきました。

凹凸のあるイラストで花火が開いたところを確認
約60キロの2尺玉模型
花火筒に模擬玉を入れる
花火の断面図

一般の方に配布するプログラムを点字で制作し、視覚障がい者の方に配布しました。
また花火大会の広がりや花火が上がる高さなどを触って感じていただけるように、花火大会のイラストに、特殊加工を施して凹凸をつけ、触ってわかるようにした点図チラシもご用意しました。健常者の方にも通常のカラー印刷チラシとして楽しんでいただけるものになっています。

【 当日のご意見 】

  • ・普段触る事のない筒を見ることができたり、2尺玉の重さを知る事ができたりして、すごく面白かったです。スタッフの方の説明も分かりやすかった。